小学5年生には、文章が難解すぎて、しかもその文章の要約となると、さらにハードルが高くなる。特進科だけに、難しいことを教えてきてはいるが、あくまで「読むこと」が中心であり、「書くこと」はほとんど手付かずである。
こうした事情を差し引かなければならないが、彼らの書いたものは愉快だ。まずは男子生徒が書いた感想文の一部を原文のまま紹介する。
「(前略)東大で6大学野球をするという夢はかなわなかったものの、すさまじい集中力と気迫を得ることができた。彼はその困難を自らの力で乗り越えた。そして、彼は、~と出会い、授業終了後、彼と話した。実に待ち遠しいものであった。」
~の部分には、私の名前がフルネームで書かれているのだが、塾生の頭の中で「彼」が混在してしまっている。文中にある「彼は」という主語は、超一流講師の彼である。私の書いた文章を転用しているからでもあるが、「その困難」という指示後の「その」が指し示すものがないのが第一点。
次に、「彼は」という主語を用いて、私と「出会い、」「授業終了後」「話した」という述語を二つ用いる以上、「授業終了後、彼と話した。」とある「彼」は、私を指すことになってしまう。文脈をたどればわかることとは言え、わかりやすい書き方とは言えない。
最後に、末文の「実に待ち遠しいものであった。」は、私が書いた文章にそう記した以上、私にとっては「待ち遠しいものであった」のは事実であるが、超一流の彼にとっても「待ち遠しいものであったかどうか」は定かではない。文章の一部を転用するのは構わないにしても、よくよく考えないと、このような事実の誤認を招いてしまう。
これらの書き間違いをどう教えるか、それが大切だ。クラス全体での教材にしようと思う。
もう一つ紹介しよう。感想文の最後の三文を原文のまま引用する。
「ぼくは『彼』ほどの血のにじむような努力はまだできていません。『人は変われる』という言葉を信じて、最初に書いた自分の夢を実現させるためにもっともっと努力をしなければいけないと感じました。(改行)まずは、超一流の~先生の授業にいっしょうけんめいにがんばりたいと思います。」
~の部分には、私の名前が書かれていたので、早速、その塾生に尋ねた。
「ここ、まじめに書いたんか?それとも、笑いを取ろうと思って書いたんか?」
「え、どこ?あぁ、まじめに書いた。」と言いながら、右手の親指を立て、私の方を見てにっこり微笑むのであった。